【蓬莱阁杯】步王夫之绝句韵咏史廿二组

终不似少年遊

七绝•苏轼被再贬而流落昌化杂咏二首
其一
孤舟及此断中肠，垂老投荒对晚阳。
文狱劫波虽未去，犹嘲无瘴损清狂。
其二
琼崖谪所爱邮铃，写和陶诗密若星。
认作家山可埋骨，只因一派海天青。

七绝•杂咏罗横十上不第
其一
寝陋形骸锦绣肠，长安一再问春阳。
礼闱提笔犹强谏，座主焉能许狷狂。
其二
东内无缘听殿铃，凡间已老枉诗星。
旧名横字甘抛撇，还隐江头四望青。

七绝•王嫱出塞杂咏二首
其一
一曲琵琶拨断肠，尖风东起向残阳。
掖庭渐远思尤重，回不回头难欲狂。
其二
塞外王庭雨打铃，明君又自泪星星。
但求未死身归国，宁不姓名垂汗青。

七绝•屈原投江杂咏二首
其一
渔翁无意鉴衷肠，赋客濒江悼晚阳。
天问何多仍醉者，离骚枉自浩歌狂。
其二
剩凭命振醒人铃，故国昏濛落大星。
旦暮翻波汨罗岸，香蒲犹映楚魂青。

七绝•高启之死杂咏二首
其一
梦遇白鸡悲锦肠，身加萧斧更寒阳。
何凶何罪何无赦，上意分明比虎狂。
其二
玉殿阴风震铎铃，金陵肃气落文星。
籍中佳士何尝死，犹对吴波送眼青。

七绝•祢衡击鼓骂曹有咏
其一
裸裼改.装无隐肠，参挝按节奏渔阳。
心颜愧怍翻为孰，大雅才教处士狂。
其二
踞坐辕门骂盗铃，一通捶杖气冲星。
蚁观他者将何奈，鹦鹉洲头眼不青。
〔注〕①.事据《后汉书•卷八十下•文苑列传•祢衡》、《世说新语•言语》所载击鼓骂曹章节。②.渔阳：即鼓曲《渔阳掺挝》的省称，祢衡所创。取名渔阳，是借东汉时彭宠据渔阳反汉的旧事，影射曹操。掺，通参，即三；挝，鼓槌。掺挝，指鼓曲的曲式为三段体，犹类古曲中三弄、三叠。

七绝•张神武出广宁渡辽河经首山继续逆行
其一
一副忧时铁石肠，引兵二百救辽阳。
拼将血肉烟烽里，不肯随波决去狂。
其二
鞑夷挥挡马摇铃，合得重围落将星。
假若明军俱敢勇，营门何必挂丹青。
〔注〕①.挡：凤翅挡、五齿挡等后金骑兵使用的挡类武器。②.丹青：画像。神武死后，监军御史方震孺绘出神武像悬挂辕门，将士出征先拜神武，以激励全军奋勇杀敌。

七绝•李贽之死感赋
其一
民本主张萦寸肠，启蒙直要入西阳。
纯真安使君权忍，思想者成邪论狂。
其二
剃刀自割讶风铃，谈笑声中落巨星。
千古是非翻倒遍，一生胆识附丹青。

七绝•览读齐后主冯淑妃列传戏咏二首
其一
何为后主最悲肠，非失平阳复晋阳。
惟乞相携小怜去，任人敷写笑痴狂。
其二
一笑如花对护铃，琵琶弹落晓天星。
红颜赢得无穷誉，不及郎君长眼青。
〔注〕护铃：省自“护花铃”。

七绝•永嘉南渡有咏
其一
中原将陷痛谁肠，带血兵刀满洛阳。
大部衣冠已何处，江东回眺浪涛狂。
其二
一众长无去解铃，惟凭天险阻胡星。
建康城柳含烟好，管甚梓桑青不青。

七绝•天启元年浑河血战杂咏二首
其一
桥北桥南吼怒肠，浙川枪戟刺残阳。
顽躯既入明军阵，纵死不容金虏狂。
其二
战血腥红溅马铃，百多将校陨如星。
相知长短沿河柳，岁岁犹为忠骨青。

七绝•秦良玉奉诏勤王感赋二首
其一
白杆军兵最侠肠，召之即赴战西阳。
桃花马上戎袍督，却虏从来敢放狂。
其二
邑野旋销胡骑铃，四川营外两三星。
欲谈石砫支危厦，也在民心也汗青。

七绝•昌黎左迁潮州杂咏二首
其一
辟佛徒劳锦绣肠，八千里路徙潮阳。
释奴祭鳄宽徭赋，满郡谁无识楚狂。
其二
乡校新成敲玉铃，退之稻海望晨星。
一州都被斯民与，韩水悠悠韩木青。

七绝•漠北决战有思
其一
沙惊战骑裂衷肠，血溅戎衣映晚阳。
止为犯边胡虏信，义师元不恕昌狂。
其二
将士穷追直响铃，单于逃突似狼星。
故而疆界长安矣，强汉非惟有卫青。

七绝•湖广填四川事有咏
其一
大西军去更回肠，十二残黎送晚阳。
一旨遣来犹苦客，烧荒分地孰无狂。
其二
连岁惊心威武铃，人丁早已若晨星。
烽烟消歇迁民入，功过相当附汗青。

七绝•岐沟关之战杂咏
其一
冒进涿州惊断肠，为逃钳击退高阳。
何堪回首岐沟外，拒马河红虏骑狂。
其二
忍听辽军得意铃，谁怜负耻泪星星。
不追兵事强谈咎，转效龟潜乞浪青。

七绝•感赋丘处机一言止杀
其一
肯来西域自倾肠，悲悯精神说孔阳。
嗜杀终非天下计，迷人开窍始收狂。
其二
苍生天大警如铃，大帝不过天上星。
一语能销频喋血，全真正气附丹青。

七绝•崖门海战杂咏二首
其一
噩浪拍崖惊断肠，君臣泪目对残阳。
嗟乎满舰兵民烈，矢死无降骂虏狂。
其二
剩听虞渊沦丧铃，山河从此荡胡星。
华言宋字还危迫，血草相如待复青。

七绝•缇萦上书救父杂咏二首
其一
随出临淄哭断肠，囚车颠簸向残阳。
请凭身赎仓公罪，羞杀须眉几许狂。
其二
死不复新言振铃，前朝重典若凶星。
肉刑戕忍于斯废，孝烈精神照汗青。

七绝•李泰发谪居琼儋有咏二首
其一
北眺中原痛肺肠，每题秦氏必咸阳。
人还构造何曾少，到底珠厓走若狂。
其二
重叩东坡书院铃，一心碑记育文星。
终焉志在蛮乡醉，涌月亭前海色青。

七绝•张砚斋乞上一言为券风波杂咏
其一
何致君王动怒肠，臣思归老晒西阳。
叩求配享书成券，可笑声华预约狂。
其二
终究皇心共殿铃，风吹急响震残星。
三朝学士余生惨，死后凭人属汗青。

七绝•感赋郑家军成功复台二首
其一
水师上下激衷肠，怒似鸣龙跃海阳。
片土岂容它占固，一平纸虎旧年狂。
其二
不止民声响若铃，还凭军实耀如星。
版图拼死教全整，即是千秋附汗青。

【连载】憨山老人梦游集55卷第39(2)

　　 安贫

　　 语曰。贫而无谄。富而无骄。骄则失富。谄则献贫。是故未若贫而乐也。贫而乐。则无不乐。是以颜子之陋巷。原宪之环堵。子路之缊袍。荣公之带素。岂无所乐而乐哉。苟得其乐。则虽天下不易已也。噫。宜乎许由务光。啮缺披衣。而荷决绝之行焉。孔子亦曰。饭蔬食饮水。曲肱而枕之。乐亦在其中矣。不义而富且贵。于我如浮云。

　　 学要

　　 尝言为学有三要。所谓不知春秋。不能涉世。不精老庄。不能忘世。不参禅。不能出世。此三者。经世出世之学备矣。缺则一偏。缺二则隘。三者无一。而称人者。则肖之而已。虽然不可以不知要。要者。宗也。故曰。言有宗。事有君。言而无宗。则蔓衍无统。事而无君。则支离日纷。学而无要。则涣散寡成。是故学者。断不可以不务要矣。然是三者之要在一心。务心之要在参禅。参禅之要在忘世。忘世之要在适时。适时之要在达变。达变之要在见理。见理之要在定志。定志之要在安分。安分之要在寡欲。寡欲之要在自知。自知之要在重生。重生之要在务内。务内之要在颛一。一得而天下之理得矣。称理而涉世。则无不忘也。无不有也。不忘不有。则物无不忘。物无不有。物无不忘。物无不有。则无入而不自得矣。故曰。天地与我并生。万物与我为一。会万物而为己者。其唯圣人乎。噫。至矣尽矣。妙极于一心。而无遗事矣。是故学者。固不可以不知要。

　　 牧心

　　 安心在乎虚。持心在乎平。用心在乎照。悟心在乎忘。心体本虚。物欲交错。妄想集积。了无一隙。是以气蒸体昏。熠熠炎炎。而不安矣。故曰。物撤疏明。不撤则不虚。不虚则不明。不明则不安。故安心在乎虚。心本如如。内外平等。其不平者。由乎重轻。是以愚者重其外。智者重其内。圣人重两忘。重外者坠。重内者矫。两忘者平。平则无不中。故持心在乎平。心体本明。无所不照。由其汩昏。故有所不照。观夫世人。日益其汩昏。虽用卒无以自鉴耳。故用心在乎照。心本不迷。由失照故迷。迷祛则照泯矣。故悟心在乎忘。

　　 观心

　　 观心。第一微妙法门也。夫心为一身之主。万行之本。心不明。欲身正而行端者。鲜矣。是故世闲一切种种苦恼。皆从妄想颠倒所生。若颠倒不生。则生无生矣。无生则虽生而无生。生而无生。则念亦无念。无念则颠倒何起。有起则非正观也。正观则无不正。

　　 读庄子

　　 真宰本无形。超然尘垢外。忽尔一念迷。闯入者皮袋。如被裹猿猴。左右不自在。起坐要奉承。饥渴索管待。名利为他忙。田园尽典卖。更有一种痴。将脸要人爱。脂粉摸臭皮。恰似精鬼怪。个个都为他。惹下来生债。伤嗟今古人。谁肯自惊骇。惟有漆园生。此味少知解。

　　 圆扇说

　　 予己丑夏日。偶为狂士所黩。寓墨之东郭。有出扇索书者。因信口为说。以记之。
　　 大火横流。销金铄石。瓮牖两闲者。鲜不为其烧煮矣。嗟乎人者。苟得吾皮骨以自持之。则食息起居。唯命是听。使清凉之乐。顿生于肘腋。炎蒸之状。即解于肌肤。蚊蚋之队。指挥而立退。嘬噆之苦。擘画而潜消。又何夸生羽翩以御泠风。乘飞云而游六合。悲夫。凉飙一至。委成弃捐。霜露才兴。视为长物。是岂非为而不宰。功成而不居者。夫何以与此哉。

　　 寂寞说

　　 寂寞之为言易。而履之为难。其自得于心。尤难于履行焉。即淴淴世故。无论其低昂。然在古豪杰士。或出或处。行显而心隐。诚难以概迹见。非夫具超力之眼。而持圆照之鉴者。又何以壮其形容哉。噫。宜乎楚狂行歌于仲尼。许由掉头于尧舜。虽然。岂二子之是。而三圣之非耶。是各是其是。而以是为得者。原于大道皆影响耳。恶影而和响者。其难语寂寞之旨。向道君子。有寝处焉。

　　 诚心说示昙支

　　 心不诚不明。性不静不定。精不聚不完。神不凝不逸。志不壹不笃。气不养不和。忿不惩不平。欲不窒不寡。学不讲不博。问不辩不通。节不立不坚。操不持不劲。是故君子之学。在重其人所轻。益其人所损。取其人所弃。得其人所无。故道大德弘。身裕名贵。超然而无对者也。

　　 泽山说

　　 闻之庄生有言曰。藏舟于壑。藏山于泽。谓之固矣。然有力者。负之而趋。昧者不觉。盖言有所藏。则有所负。无藏则无负矣。虽然以无藏为至。愚意有所藏。则较不藏者胜焉。故曰。山怀玉而草木润。川贮珠而岸不枯。岂非内有所藏。而外有所光者耶。是故君子贵藏器于身。待时而后用也。且夫山之积也厚。故高而众美具。泽之积也深。故下而众德归。取象君子。又有以焉。

　　 觉梦说

　　 幻人方乘一叶。而泊幻海之[陟*頁]。将与窈淼之众。居广漠以休焉。适有浮游先生者。触而问曰。嘻。异哉。吾睹子之难穷也。望其形也飘若云。目其容也凄若冰。叩其中也空空。即之也温。绎之而渊且深。缄乎若闷。泛乎若乘。拟之而似人非人。何居何事。而至此乎。幻人无以应。唯唯默默。无知无识。无示无说。与之寝息。坐卧饮食。起居寤寐。无闲者旬日。先生心烁意消。而将与之俱化。先生且行。有请于幻人曰。予风波之民也。愿假舟楫。即浮游而之彼岸者以凭。师无意乎。曰居。是何说也。子独不见梦人乎。方其长夜之寝也。必沉酣颠瞑。精神惛瞀。魂虑变慑。形若尸解。而心若魍魉。居不移席。而百怪生焉。时不加顷。而千载邈焉。至其冥冥漠漠。彷徨四顾。或登无极之颠。或临不测之渊。毒龙在前。猛兕在后。进之而履危。却之而迫险。入之而无罅。升之而若坠。且将攀枯枝而挹朽藤。加以蜂[蠢-春+萬]攒眸。蛇蝎系足。当是时也。穷心困智。出之而无方。脱之而无术。救之而无人。呼之而谁与为亲。是何惶惶业业。现诸形色。而发乎呻吟。即有觉者。竟何以宁。惟其猛然叱吒。跃然而起。一觉而大寤之。回视梦事。若依稀仿佛。然求之而不得。语之而不及也。是必将与觉者。一笑而释之矣。噫。岂独梦人哉。世尽然也。先生试将持此自觉。以觉诸梦者。

　　 医说赠李高士

　　 余被放之八年。癸卯冬。偶自曹溪。随缘乞食于凌江水西。适有丈人。庞眉皓髯。访余于旅泊。睹其状貌伟然。知为隐者也。扣其业。则曰岐黄。余是知为达士也。或曰。昔人有言。达则为良相。不达则为良医。余谓不然。盖达为医。而不达为相耳。何者。夫相之任。燮阴阳而葆元气。剂众物而仁群生。致人君于泰定。措天下于又安。此其职也。而未必尽。即尽而功未必忘。以其先己后物。因利输忠。且必外假人主之权。资众多之手。以济其事。况兢兢于得失是非荣辱之场。终身卒业。而道未必光。日夜营营。劳神焦思。以至戕生伤性。老死而不悟者众矣。奚其达。若夫医则反是。其职也。以命为任。以仁为心。以义为质。以物为己。以去邪为务。以正气为理。以经为度。以权为用。故其治也。必致心君于晏然。措四肢于调适。凡遇危履困。运独断之智。持特立之操。不惑于众口。不避其群邪。多方缓急。进退合宜。以大中为准。以至静为先。及其奏效也。不计其利。不伐其功。斯岂为而不宰。功而不居者耶。非天下之至达者。又何以与于此。由是观之。忘己之功大。忘利之名高。不忘者。显报而幽罚。兼忘者。先微而后著。足知忘功者。后必大也。嗟乎人者。苟能操良医之心以治国。则何国不治。持忘己之心以御物。则何物不容。物容则并包。国治则兼善。此圣人之成功。丈夫之能事也。斯则术异而功一。名异而实同。又何以显晦计其等差。贵贱拟其神明者哉。以丈人高其行而神其医。余因论医之秘。以赘丈人之行李。冀观者。不独知丈人之医。且因医以进君子之业。将施之于天下国家。共睹轩黄之化也。丈人。达者也。知丈人之心。则无往而不达矣。

【シネマトゥデイ】追悼特集：藤原啓治さんが語った「野原ひろし」https://t.cn/A625OqM9

「クレヨンしんちゃん」野原ひろし役、「交響詩篇エウレカセブン」ホランド・ノヴァク役、映画『アベンジャーズ』シリーズのアイアンマン＝トニー・スターク役の吹替などで知られる声優の藤原啓治さんが4月12日に死去したことが所属事務所より発表された。

筆者は何度か藤原さんに「クレヨンしんちゃん」について話をうかがう機会をいただいたことがある。ここでは、他の媒体に掲載されたインタビューも含め、藤原さんがどのように「理想の父親」とも言われるようになった野原ひろしを作り上げていったかを紐解いてみたい。（大山くまお）

27歳で射止めた野原ひろし役と試行錯誤

1992年にスタートしたアニメ「クレヨンしんちゃん」。藤原さんがオーディションに合格して野原ひろし役を得たのは、声優としてのキャリアを歩みはじめて2年目だった27歳の頃。もちろん、父親を演じるのは初めて。35歳という設定のひろし役を受けたのは年齢層が高い人ばかりで、自分と同世代の声優はオーディション会場で一人も見かけなかったとか。

このときのオーディションは今では珍しい「掛け合い」で行われた。藤原さんは2組のしんのすけ候補の声優と掛け合いを行ったが、2組目でその後しんのすけを演じた矢島晶子さんとペアを組んでいる。

見事にひろし役を射止めた藤原さんだが、「お父さん役を演じるからといって、お父さんを意識したところで、自分に何ができるんだろう？」と感じていたという。当初はセリフも少なく、「ただいま」と言うだけの回も少なくなかった。

そんな中、放送が始まった2年目ぐらいの頃に壁にぶつかってしまう。ひろしを演じていて違和感を覚えるようになったのだ。作画や演出がどんどん変化しているのに、自分の演技がスタート当初から変わっていないことが原因だった。そのことに気づいた藤原さんは、半年ほどかけて試行錯誤しながら演技を変化させていく。

このときに藤原さんが気づいたのは「変化してもいい」ということだった。父親だから、夫だから、ひろしだからといって、何かにとらわれる必要はない。このことについて次のように語っている。

「『ひろしはこういう人です』と決めつけないようにしようと思っていますね。『ひろしはこんなことしないだろ』『こんなことしゃべらないよ』とは思わないように。演じる側の変なこだわりで、こぢんまりしちゃうのはマズいかな、と」（「クレヨンしんちゃん大全」（双葉社））

だからこそ、ロボットになろうが（『映画クレヨンしんちゃん　ガチンコ！逆襲のロボとーちゃん』）、ニワトリに変身しようが（『映画クレヨンしんちゃん　オタケべ！カスカベ野生王国』）、女装しようが（『映画クレヨンしんちゃん　嵐を呼ぶ栄光のヤキニクロード』ほか多数）、ひろしはひろしのままでいられたのだろう。

「このままではひろししかできなくなってしまう」

「クレヨンしんちゃん」は放送開始から半年もすると視聴率がうなぎ上りになり、1993年7月には歴代最高視聴率28.2％を記録。国民的人気作品として不動の地位を得たが、同時に藤原さんはある悩みを抱えることになる。

それは「カッコよさそうな役のオーディションの話がまったく来なくなった」ことだった。ひろしの役のイメージが強すぎて、所属事務所が候補に藤原さんの名前を挙げるだけで先方から断られることがある一方、一気に父親役が4つも5つも来ることがあった。30歳を過ぎたばかりの藤原さんにとっては死活問題だったはずだ。

「このままではひろししかできなくなってしまう」と焦ったが、「しんちゃん」という作品の幅の広さと、「変化してもいい」ことに気づいていたことが功を奏した。藤原さんはひろしを演じることで、演技の幅を自在に広げていき、どんどん新しい役を得るようになったのだ。

藤原さんは実績を積み重ね、実力派声優としての地位を不動のものにしていく。2009年のインタビューでは「いろいろな顔をもつひろしというキャラクターを通して、自分もものすごく成長したと思います」「ひろしを通していろいろな実験をすることもできたし、あれこれ試行錯誤した結果、27歳ではできなかったことを今やることができています」と振り返っていた（「声優道 名優50人が伝えたい仕事の心得と生きるヒント」主婦の友社）。

『モーレツ!オトナ帝国の逆襲』のひろし

ひろし役を大きく膨らませていった原恵一監督との出会いも大きい。ひろしについて「男のいちばんだらしない部分を持ったキャラクターで、それを描くのがすごく面白かった」という原監督だが、なによりも藤原さんの声の役割が大きかったとも語っている。

「最初は出番が『ただいま』と『いってきます』くらいしかなかったのに、スタッフが藤原さんの上手さを知るにつれてひろしのウェイトが重くなっていったのは間違いないと思います」（「クレヨンしんちゃん大全」（双葉社））。余談だが、原監督は藤原さんとよく飲みに行っていたようで、お酒を飲みながらのトークイベントでは何度も「啓治、好き」と告白（？）していた。

原監督は劇場映画作品でもひろしをフィーチャーしていく。初監督映画の『クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』では、ひろしが女刑事の東松山よねと二人で旅する旅情あふれるシーンや兄になったばかりのしんのすけに語りかけるシーンが印象的に描かれた。

藤原さんと原監督のコラボレーションの最たるものが、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』だ。「懐かしさ」で世界を支配しようとする組織イエスタデイ・ワンスモアの陰謀で洗脳されてしまったひろしが記憶を取り戻すシーンは、大きな感動を呼んだ。

しんのすけに嗅がされた自分の靴の匂い（ひろしの足は武器になるほど臭い）によって、ひろしは35年にわたる自分の人生を回想する。大きな父の背中を見ていた子どもの頃、淡い初恋と失恋、上京と就職、みさえとの出会い、長男しんのすけの誕生、マイホームへの引っ越し、どんなに仕事で疲れ切った日でも温かく出迎えてくれる家族たち。いつしか幼い頃の自分のように、しんのすけが自分の大きな背中を見つめるようになっていた。すべてを思い出して、ひろしはむせび泣く。そして組織のリーダー、ケンに向かって「オレの人生はつまらなくなんかない！」と言い切るのだ。

藤原さんもひろしを演じていて最も印象的だったシーンとして『オトナ帝国の逆襲』の回想シーンを挙げている。「収録時は亡くなった父親の姿が常に頭の片隅にありました。誠に勝手ながら、この作品を尊敬する私の父親に捧げています（笑）」（V-STRAGE「しんちゃん通信」スペシャルインタビュー「野原ひろし役藤原啓治」）。ちなみに、最後の「（笑）」は藤原さんが付け足したもの。きっと照れくさかったのだろう。

「普通に家族を守るのって、たいしたことだよ」

ひろしについて「すごくカッコいい男だと思います。あんなバタバタした日常を受け入れて、カラリと生きることができるなんて、現代においてかなり強い人間だと思います」（DVD「クレヨンしんちゃん きっとベスト 凝縮！野原ひろし」ライナーノート）と語っていた藤原さん。器が大きくて、イヤミなところがなく、後ろ向きにならない。そして人間臭い男だという。

藤原さんは「憧れとしては、（野原）ひろしに、なりたいんですよね」とはっきり言う。「『家族を守ること』も『人類を守ること』も“ヒーロー”の根底は一緒な気がします。サラリーマンでああ見えて、ひろしも身近な1人のヒーローなのだなと」（ORICON NEWS、2018年4月22日）。ちなみに自身にとってのヒーローを問われた藤原さんは「両親」と答えている。

筆者が藤原さんに世の中のお父さんたちへのメッセージを求めたところ、次のような答えが帰ってきた。

「『普通に家族を守るのって、たいしたことだよ』ってことですね」
「僕にとっては当たり前じゃないことが、世界中で当たり前のこととして行われている。それってすごいことだと思います」

藤原さんが演じることによって、野原ひろしは世界で一番身近なヒーローになった。当たり前じゃないことを、さも当たり前のように、必死になって毎日のようにこなし、家族を守るために奮闘する父親、母親の姿を映し出しているから、「クレヨンしんちゃん」という作品は今も変わらず人気があるのかもしれない。

藤原さん、本当にありがとうございました。